処遇改善で「一律1万円・最大1.9万円」上がるは誤解|“別枠支援”と処遇改善加算の違いを整理

2025年12月〜2026年5月は「補助金(時限)」、2026年6月以降は「介護報酬の期中改定(+2.03%)」で処遇改善を制度側に移す流れ。月1万円・最大1.9万円の意味と、ケアマネ(居宅介護支援)がどう位置づくかを一次資料ベースで整理します。
「月1万円」「最大1万9千円」は、同じ数字が2つの枠組み(補助金/介護報酬)で語られやすいため混同が起きています。
- 【2025年12月分〜2026年5月分】:主に補正予算にもとづく時限的支援(補助金)(6か月分)。
- 【2026年6月以降】:介護報酬の期中改定(+2.03%)で、処遇改善を制度側で“切れ目なく”つなぐ整理。
- 最大の注意点:「+2.03%に加えて、さらに別枠で処遇改善が上乗せされる」という足し算ではありません。期中改定(+2.03%)の中身として、処遇改善加算の拡充・対象拡大等を行い、賃上げ水準(例:月1万円等)を実現する説明構造になっています。
補助金は個人に自動支給される仕組みではなく、事業所が要件に沿って申請・配分・報告する枠組みです。したがって、「全員一律で毎月1万円増える」と断定できる話ではありません(最終は要領・通知等で確定)。
最近、「処遇改善でケアマネも含めて毎月1万円給料が増える」「条件を満たせば最大1万9千円上がるらしい」といった話を耳にする方が増えています。
ただし、このテーマは“補助金(時限)”と“介護報酬(期中改定)”を混ぜて説明されがちです。ここを切り分けると、職員説明や採用広報での誤解が大幅に減ります。
1. 「月1万円・最大1.9万円」は何の話?(混同されやすい2本立て)
結論から言うと、「月1万円」「最大1.9万円」は1つの制度だけの話ではありません。次の2つに分けて理解します。
(A)【2025年12月分〜2026年5月分】補正予算による“時限的支援”(補助金)
補正予算では、介護分野の緊急対応として賃上げ・職場環境改善を支援する枠組みが示され、目安として「月1.0万円相当」などが説明されます(対象は6か月分)。
- 介護従事者に幅広く「月1.0万円相当」の賃上げ支援
- 生産性向上・協働化に取り組む事業者の介護職員に月0.5万円相当の上乗せ
- 職場環境改善の支援(人件費に充てた場合、介護職員に月0.4万円相当の賃上げに換算される、という説明)
※0.4万円は職場環境改善枠を人件費に充当した場合の換算例であり、現金給与として必ず配る確約額ではありません。
この補助金は、2025年12月分〜2026年5月分(6か月分)を対象に「賃上げ相当分を支援」する整理です。交付方法・申請期限・具体の配分ルールは、今後の要領・通知・自治体運用で最終確認が必要です。
(B)【2026年6月以降】介護報酬の“期中改定(+2.03%)”で処遇改善を制度側で実装
政府資料・審議報告では、令和9年度改定を待たずに期中改定(2026年6月施行)を行い、賃上げ水準(例:月1万円等)を制度側で確保する方針が示されています。
期中改定の改定率(+2.03%)は、介護報酬全体の財源措置(期中改定としての改定率)を示す指標です。
その中身として、処遇改善加算の拡充(対象拡大・配分強化等)を通じて、「介護従事者:月1.0万円」等の賃上げ水準を実現する、という説明構造になっています。
したがって、「+2.03%の上に、さらに処遇改善が別枠で上乗せされる」という理解は誤解を招きます。
審議報告では、補正予算の支援が「2025年12月分〜2026年5月分」であること等を踏まえ、2026年6月施行(期中改定)とすることが適当と整理されています。
混同を止める一枚表(これだけ見ればOK)
| 区分 | 補正予算の支援(補助金) | 介護報酬(期中改定:+2.03%) |
|---|---|---|
| 時期 | 2025年12月分〜2026年5月分(6か月分) | 2026年6月施行(審議報告で整理) |
| 性質 | 時限的な支援(補助金) | 制度(介護報酬の期中改定) |
| 数字の出方 | 「月1.0」「0.5」「0.4相当」などの支援メニューとして説明される | 改定率(+2.03%)の中身として、処遇改善加算の拡充等により「月1万円水準」等の実現を図る |
| ケアマネ | 対象外サービス(ケアマネ等)も、準ずる要件で対象になり得る趣旨が示される | 居宅介護支援・介護予防支援を新たに対象に加える方向が審議報告で整理される |
2. 「+2.03%」の根拠はどこ?(資料のどこを見ればよいか)
「介護報酬+2.03%」は、政府の予算案資料で明記されています。現場の説明では、ここを根拠として示すのが最も安全です。
- 厚労省「令和8年度予算案のポイント」に、「介護報酬改定 +2.03%」と明記されています。あわせて、期中改定として介護従事者に月1.0万円等の賃上げ水準を実現する措置の説明が並びます。
- 財務省「令和8年度社会保障関係予算のポイント(概要)」でも、改定率:介護報酬+2.03%、および期中改定として月1万円等の賃上げ措置を記載しています。
「+2.03%の期中改定は、処遇改善を中心に制度側で賃上げ水準(例:月1万円等)を実現するための改定。“2.03%が別途上乗せされ、その上に処遇改善がさらに付く”という足し算ではない」。
3. 仕組みが違う:処遇改善(介護報酬)と“補助金”は別制度
「処遇改善」という言葉が日常会話では“賃上げ全般”として使われがちですが、制度としては別物です。
| 区分 | 処遇改善(介護報酬:加算) | 補助金(補正予算:時限) |
|---|---|---|
| 根拠 | 介護報酬(制度) | 補正予算等(補助金) |
| お金の入り方 | 加算として報酬に上乗せ(算定・届出) | 補助金として事業所へ(申請・要件・報告) |
| 期間 | 制度として継続(改定で見直しはあり得る) | 時限的(今回は6か月分の整理) |
| 賃金反映 | 賃金改善として配分(計画・実績等) | 賃金改善や職場環境改善に充当(要件あり) |
4. 【最重要】ケアマネ(居宅介護支援)はどう整理すべきか
ケアマネが混乱の中心になりやすいのは、従来の枠組みでは「対象外」と整理される場面が多かった一方、今回の資料では対象の拡大・新設が示されているためです。
- 期中改定は、補正予算の支援(12月分〜5月分)を踏まえ、2026年6月施行が適当と整理されています。
- 処遇改善(介護職員等処遇改善加算)について、介護職員だけでなく介護従事者(介護支援専門員等)も新たに対象とすることが適当とされています。
- あわせて、居宅介護支援・介護予防支援も、新たに処遇改善加算の対象サービスとすることが適当、と整理されています。
※ 具体的な算定要件(キャリアパス要件・職場環境等要件、経過措置など)は今後の通知・Q&A等で最終確認が必要です。
5. 誤解を防ぐ:よくある“3つの誤読”
誤解1|『全員の給与が自動で一律1万円アップ』ではない
補助金は国が個人に直接振り込む仕組みではなく、事業所が申請・交付を受け、要件に沿って配分し、実績報告する枠組みです。無条件で全員一律に確定する性質ではありません。
誤解2|『最大1.9万円』は“誰にでも”ではない
「最大1.9万円」は、上乗せ条件や定期昇給込み等の前提を含む表現です。職員説明では、「誰に」「どんな条件で」の話かを必ず添えるのが安全です。
誤解3|0.4万円は“確定支給額”ではなく換算例
0.4万円は職場環境改善の支援を、人件費に回した場合の換算例として説明される位置づけです。現金給与として必ず配る金額と決まった話ではありません。
Q&A|よくある疑問(短く・誤解が出ない形)
Q1. 「処遇改善で1万円上がる」と聞きました。全員自動で増えますか?
自動ではありません。直近(2025年12月〜2026年5月)分は補助金として整理され、事業所の申請・要件・配分・報告が関係します。2026年6月以降は期中改定で制度側へつなぐ方針ですが、いずれも要件・配分ルールの確認が必要です。
Q2. 「最大1.9万円」って、誰でももらえるという意味ですか?
その意味ではありません。「最大」は上乗せ条件や定期昇給込み等の前提を含む表現です。説明時は、前提と対象を必ず添えてください。
Q3. ケアマネ(居宅介護支援)も対象になりますか?
補助金側では、対象外サービス(ケアマネ等)についても準ずる要件で対象になり得る趣旨が示されています。期中改定側でも、審議報告で居宅介護支援・介護予防支援を新たに対象に加える方向が整理されています。ただし、実務の最終形は今後の通知等で確定します。
公式資料リンク(一次情報)
- ▶ 厚生労働省|令和7年度 厚生労働省補正予算案の概要(老健局関係)
- ▶ 厚生労働省|令和8年度介護報酬改定に関する審議報告(介護給付費分科会)
- ▶ 厚生労働省|令和8年度予算案のポイント(介護報酬改定+2.03%等)
- ▶ 財務省|令和8年度社会保障関係予算のポイント(概要)
関連記事(当サイト)
会議資料をもとに、ケアマネ・訪問系・施設別に方向性を整理した記事はこちらです。
▶ 【続報】12月23日 会議録が公表されました(当サイト)
まとめ:伝えるべき結論は「補助金」と「期中改定(制度)」を分け、ケアマネの位置づけを押さえる
- 直近(2025年12月〜2026年5月)の「月1万円」等は、主に補助金(時限)として整理される
- 2026年6月以降は、期中改定(介護報酬+2.03%)で制度側へ“切れ目なく”つなぐ方針が示される
- 期中改定(+2.03%)の中身は、処遇改善加算の拡充(対象拡大等)として実装される整理であり、「+2.03%にさらに処遇改善が別枠で上乗せ」ではない
- ケアマネは、補助金側では準ずる扱い、期中改定側では居宅介護支援・介護予防支援を新たに対象に加える方向が審議報告で整理されている
※本記事は、厚生労働省・財務省が公表した一次資料(補正予算案・審議報告・予算案資料等)をもとに、現時点で示されている方向性と誤解ポイントを整理したものです。最終的な運用(申請要領・Q&A・通知等)で確定します。

